東京地方裁判所 昭和38年(ワ)8271号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決要旨〕土地所有者を相手方として処分禁止の仮処分をした土地賃借人は、仮処分に違反して土地所有権の譲渡が行われた場合でも、賃借権保全のため従前の土地所有者に代位して不法占有者に対し土地明渡を求めることができる。
〔事実と争点〕本件土地はもと訴外中島幸作の所有であり、原告らはいずれもその一部を中島から建物所有の目的で賃借している賃借権者である。原告らは、被告らが本件土地上の訴外清水清所有の建物の各一部に居住し、いずれも土地所有者たる中島に対抗し得る権限がないのに、その敷地部分を占有しているとして、各自の賃借権保全のため、中島に代位して、被告らに対し各居住部分から退去してその敷地を明渡すことを求めた。被告らは、抗弁の一つとして、昭和二五年三月二八日中島は本件土地を訴外石川末吉に売渡し、昭和三四年一一月四日その所有権建物登記を経たから、中島は本件土地の所有者でなく、これに代位する原告らの請求は失当であると主張した。しかし本件土地については、原告らが昭和二五年一〇月一四日中島を債務者として処分禁止の仮処分決定を受け、同月一六日その旨の登記がなされている。
判決は、次のように説いて被告らの抗弁を排斥した。
〔判決理由〕しかして、前記石川末吉に対する所有権移転登記は、右処分禁止の仮処分登記後になされたものであることが明白であるから、右石川末吉に対する所有権譲渡は仮処分債権者たる原告らに対抗し得ないものであり、したがつて原告らは、本件土地が依然中島幸作の所有であることを主張し得ることは当然というべきである。それ故、中島幸作が本件土地の所有権を喪失したことを前提とする被告らの抗弁は採用できない。(尤もこの点については多少説明を要する法律問題が存する。つまり、たとえば処分禁止の仮処分があつても、これに違背する譲渡行為は絶対無効ではなく、単に仮処分債権者に対抗できないだけのことで、仮処分債権者以外の者に対する関係では有効たるを失わないと解されるから、被告らとしては、右仮処分債権者でない中島幸作に対しては、同人のなした本件土地の譲渡行為を有効であると主張し得る筈であるし、他面、本件の如き債権者代位権行使の事案においては、元来債権者は債務者の地位に代位して債務者の権利を行使するものに外ならない関係上、相手方たる被告らは、債務者たる中島幸作に対し主張し得べき一切の事由を債権者たる原告に対しても主張し得るのが本則であるから、結局本件においては、被告らは原告に対しても前記中島幸作のなした譲渡行為を有効であると主張し得るのではないか、という点が一応問題となり得るわけである。しかしこの問題に関しては、当裁判所は次の如く解する。すなわち、本件処分禁止の仮処分決定は、すでに登記簿に記入されているのであるから、仮処分債権者たる原告らは、爾後、右仮処分をもつて広く一般第三者に対抗し得ることはもちろんである。しかして、この理は本件の如く原告らが債権者代位権を行使する場合においても同様であつて、仮処分債権者たる原告らは、被告らに対しても右仮処分の効力を主張し得るのが相当であると考える。けだしかく解しても、被告らに対し別段不測の損害を蒙らしめるおそれはないし、他面、右と反対の解釈を採るときは、本件の如き場合、法が折角この種仮処分を認めた趣旨が没却されてしまい、不当に債権者の利益を害する結果とならざるを得ないからである。((このことは、例えば本件の如く当該土地につき賃借権の設定その他一切の処分を禁止する旨の仮処分を得た債権者が、仮処分債務者たる土地所有者に代位して、右土地の不法占有者たる第三者を相手方として土地明渡請求訴訟を提起したのち、右第三者が仮処分を無視して当該土地についてその所有者から賃借権の設定を受けたような事例を想像すれば一層事理明白になると思われる。すなわち、かかる事例において、もし仮処分債権者たる原告は、第三者たる被告に仮処分の効力を主張し得ないという解釈を採るときは、右第三者は、本来当然敗訴を免れない筈であつた訴訟であるに拘らず、自ら仮処分違背の賃借権設定を受けることにより勝訴し得るという不都合な結果とならざるを得ないのであり、かかる解釈は、到底法の趣旨に適合したものと認めることはできないのである))要するに、本件においては、前記中島幸作が処分禁止の仮処分の後になした本件土地所有権の移転登記は仮処分債権者たる原告らに対抗し得ないものであり、したがつて原告らは、被告らは対し本件土地が依然中島幸作の所有であることを主張し得るものと解する。なお、債権者代位権を行使する訴訟において、相手方が本来債務者に対抗し得べき事由を債権者に対抗し得ない場合のあり得ることについては、大判昭和一八年一二月二二日民集二二巻一二六三頁以下に判示さされている傍論の部分参照)。(士井王明)